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Brave GNU World - 第50号
Copyright © 2003 Georg C. F. Greve <greve@gnu.org>
日本語訳: IIDA Yosiaki <iida@brave-gnu-world.org>
許可声明は以下のとおり

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Brave GNU Worldのまた別な号へようこそ。 今回は、 前回立ち寄った大きな分野であるオーディオ・アプリケーションをとりあげます。

LAoE

LAoE [5] は、 Olivier Gäumannによるグラフィカルな音声エディターです。 2000年7月からの取組みの結果として、 彼は最近、 これをGNU General Public License (GPL) の下で入手可能にしました。

2000年1月からこのプロジェクトの始まる前、 Olivierは、 自分のニーズに合う適当なアプリケーションをさがしていましたが、 見つけられませんでした。 そこで彼は、 痒いところを掻くことに決め、 開発を始めました。 職業的音楽経験がなかったため、 開発は行き詰まり、 困難に直面しましたが、 時とともに解決されました。

LAoEの設計は、 色々なプラグインや効果をもつ階層状概念を採用したFree Softwareのグラフィックス・アプリケーションであるGIMP [6] に触発されました。 最先端のグラフィックス・プログラム群と同程度に完結した音声エディターを作ろう、 というのが、 Olivierの希望でした。

LAoEは、 mp3、 wav、 au、 aiff、 gsmが読み取れ、 wavとaiff形式の出力をサポートしています。 さまざまな階層や設定を保管する、 独自のlaoe形式の実装が、 計画中です。

ハードウェアの性能は、 チャンネルや階層の数に現実的な制限を課すのですが、 LAoEは、 その数を理論的に無制限にします。 精度を最大化するため、 すべて浮動小数点で演算をします。

LAoEには、 コピー、 貼り付け、 カット、 移動のような標準的機能以外にも、 精練された無限の取消しシステムがあり、 いくらでも前の状態に戻れます。 複数の方法、 さまざまな機能で、 編集領域の選択や、 変更ができます。

LAoEには、 解析ツールの他に、 波形生成子や、 さまざまな増幅変調関数があります。 高速フーリエ変換による周波数帯の変換や編集が、 さまざまな引数と周波数によるフィルターリング同様、 サポートされています。 その他、 このプロジェクトでは、 さまざまな音響効果を提供しています。 たとえば、 遅延反響、 高低操作、 不協和プラグイン、 時間操作などなどです。 また、 成分構成図の表示や編集も可能です。

Olivierは、 使い勝手の向上にも時間をかけました。 たとえば「マウス・ストローク・ショートカット」では、 マウスで「u」の字をなぞるだけで、 取消し履歴プラグインを呼び出すことができます。

もしそれでも満足いかないときには、 プラグイン形式で独自の音響効果や拡張を提供していただけるなら、 もちろん大歓迎です。

今ではもう開発もかなりすすんできたところで、 使い勝手を向上させ、 プロジェクトの利用者をさらにかちとろうと、 Olivierは、 より文書化に ―短い参照用と、 メニュー・カードはすでにありますが― 力を入れようとしています。

現在、 改良にむけた希望や提案がかなり多く、 さらなる文書化は、 やや遅れそうです。

LAoEの主な問題は、 技術的に強い制限となるメモリーに、 全体を読み込まなければならないため、 だいたい5分以上の音楽に使うことのできない点です。

また、 使用している言語はJavaで、 第49号 [7] で詳しく述べた全問題があります。 つまり、 LAoEはまだ、 独占的なプラットホームに依存しているわけです。

将来、 FreeなJavaの到来か、 あるいは別な言語 ―たぶん技術的問題も回避するために― を利用するかはさておき、 LAoEが確かにとても興味深いプロジェクトであること、 そして、 職業的オーディオ・アプリケーションの分野にさらに重要な一歩をすすめた、 ということは言えます。

Olivierの所感によれば、 彼は他人からのサポートを多くは得ていませんが、 それは、 彼がサポートに感謝をしてないということではありません。 彼はその反対に、 あからさまにプロジェクトの作業を手伝ってくれるボランティアをさがしています。

このプロジェクトについての詳細や、 連絡方法は、 LAoEのホーム・ページ [5] にあります。

Apvsys

時として、 同じプログラムの別版をインストールして、 択一的に、 また同時にさえ使えるようにしておくことは、 必要であったり、 また少なくとも、 便利であったりするものです。 こうする理由としては、 いろいろな版が後方互換性に欠けていたり、 ほかのプログラムが同じアプリケーションのさまざまな版を要求したりしている、 ということなどがありえます。

この問題の解決には、 さまざまなオペレーティング・システム (OS) に、 さまざまなアプローチがあります。 MS Windowsでは、 「レジストリー (Registry)」という集中化した方法で、 これを扱っていますが、 問題がかなり不満足にしか解決されません。

Plan 9 OSには、 合併ファイル・システムと組み合わせた、 いわゆる「ビュー」という概念があります。 これで、 アプリケーションすべてを/binディレクトリーに格納することができ、 ビューを使えば、 利用者は、 どの版を使うかを決めることができます。 ふつうUnixでは、 そのような択一やインストールは、 シンボリック・リンクや、 PATHやLD_LIBRARY_PATHの環境変数でおこないます。

システムの保守性は維持したまま、 配布物件の範囲外に、 手でインストールしたい新しい版があるときには、 生活を楽にしてくれるGNU Stow [9] のようなツールを使うことも可能です (第36号 [10] 参照)。 しかし、 複数の別々な版を同時に利用できるようにするとき、 これでは不十分です。

そういう場合、 往々にしてラッパーや、 シェル・スクリプトでしのごうとするものですが、 この解決策はヤワで、 たいてい集中的な手入れや、 保守がいります。 Arnaud BertrandによるApvsys [8] は、 よりよい解決策を提供しようとしています。

全アプリケーションの別々な版が、 Apvsysにより管理され、 全部別々な下位ディレクトリーにインストールされます。 利用者は、 ひとつのディレクトリーを自分のPATH変数につけ加える必要があるだけですが、 それも自動的におこなわれます。

結果として、 別々な版の具体的なアプリケーションや、 環境は、 APVSYS_TOOLSPEC_FILESで設定できます。 コマンド行ツールでは、 使われる版の検査や、 設定の管理ができます。 特定の版を指定しないときには、 既定の版を使います。

設定はすべて、 Perlのアプリケーションで管理される単純なテキストでおこないます。 Apvsysシェル自体は、 Cで書いてあります。

背景について若干、 ふれておくべきでしょう。 Apvsysは、 2001年にAlex FarellによりPerlで書かれたプログラムを再実装したものです。 Alex Farellは、 これを勤務時間中に書いたため、 その権利が雇用者にあり、 使えるようになることは、 もはやありませんでした。

それと同じ問題をかかえることのないよう、 Apvsysは、 GNU General Public License (GPL) Version 2の下でのFree Softwareとして、 入手可能です。

Cに書き換えることで、 Arnaud Bertrandは、 アプリケーションのスピードを上げるようにしつつ、 移行がなるべく簡単になるように、 ASCIIの設定データベース形式を維持するようつとめました。 これがそこそこ成功をおさめたようで、 フランスとベルギーにある3つの設計センターの生産環境で、 2002年からずっと、 使われ続けています。

つまり、 Apvsysの中心部は間違いなく安定している、 と思われますが、 プログラムの改良点や問題が全然ない、 ということを意味するわけでは、 もちろんありません。 たとえば、 時として、 名前の同じ別なツールでは、 問題が起こりえますし、 扱いにも注意が必要でしょう。 また、 アプリケーションの内部で、 パスが直 (じか) 書きされているときにも、 問題になります。

Apvsysの将来計画には、 グラフィカル・ユーザー・インターフェースの追加や、 パッケージ体系の追加があります。 でも、 既存のパッケージ体系、 あるいは新規実装のパッケージ体系の中から、 どんなものをとるかは、 まだ明確にはなっていません。

どちらにしろ、 Apvsysの開発への参加、 またもしできれば、 インターフェースや、 パッケージ体系への提案をしてくれるボランティアは、 大歓迎です。

ボランティアが簡単に手助けのできる別分野には、 プラットホームからの独立性があります。 Apvsysは、 GNU/Linux、 Solaris、 HPUX、 Cygwinでうごくことがわかっています。 他のプラットホームでもうごくはずですが、 検査が必要です。

Apvsysについて、 Brave GNU Worldアンケートに答えてくれた、 Xavier Duretによる最新の提案では、 GNU Hurd [11] について述べています。 これは未開拓の世界なのですが、 Plan 9や、 Apvsysと等価な機能性を提供する、 合併ファイルシステムを基礎に、 Hurdの中継子 (translator) をつくってくれるボランティアを、 彼は奨励したいとのことです。

pyDDR

少なくとも北半球では、 もうすぐ夏がやってきます。 そのため、 オタクな人たちさえも、 体形のことを考えざるを得ません。 そのわけで大好きなコンピュータから離れる必要をなくすべく、 次のようなプロジェクトがあります。

pyDDR [12] は、 制限時間内にセンサー・マットの正しい矢印を踏まなければならない、 という全身参加ルールのDDR (「ダンス ダンス レボルーション」) ゲームのPythonクローンです。 簡単そうに聞こえますが、 本当です。 ただし、 見ているだけなら。

この一連のゲームでは、 ヨーロッパや、 アメリカでは、 まだ広まっていませんが、 アジアでは一時期、 アーケードで人気があり、 多くの人たちが踊ったり、 (別なゲームでは) ドラムをたたいたりしたものです。

X11の許諾と同様のそれの下でのFree SoftwareとしてpyDDRを実装したBrendan Beckerの作業のおかげで、 皆さんは ―長くかかるコンパイルのような― 自宅での待ち時間を、 からだのためになることをして過ごすことができます。 PyGame Module [13] と、 Simple DirectMedia Layer (SDL) のライブラリー [14] が、 使われています。

Brendanは、 Joe Wreschnig、 John Baffordといったボランティア数人の作業で、 支えられていて、 他の人たちに参加をすすめています。 これには、 財政的寄付も含みます。 「ふつう」の仕事をするよりも長く時間を費やしたいBrendanは、 この点を強調しています。

pyDDRは元々、 GNU/Linux用に書かれたものですが、 Windows NT、 XP、 9X、 またBSD、 MacOS X、 BeOSでもちゃんとうごかすことができたという報告があります。 GNU/LinuxをうごかしているPlaystation 2でもうごかした人がいたみたいです ――とはいえこれは、 技術的な物知りの方だけにおすすめです。

もちろん、 完全なゲーム体験には、 あるいはまたたとえ2人でも、 もしお互いにプレーしあうときには、 センサー・マットの入手が必要です。 ですが、 センサー・マットをキーボードで代用もできますから、 新しいハードウェアなしで、 このゲームのこころを知ることも可能です。

もしゲームでダンスするような肉体的な動きが信じられないなら、 Free Softwareのゲームがここまでできるのか、 とわかる音声や、 グラフィックスは、 かなり本格的で、 一見の価値があります。

Free Software Directory

Free Softwareアプリケーションの数が増えるにしたがい、 それを概観するのがだんだん大変になりつつあります。 ポータル・サイトが、 この問題の解決策のひとつです。

残念ながら、 Freshmeatのような一部のポータルでは、 利用に限界があります。 というのも、 項目の質を維持する力がなく、 また、 往々にして、 独占とFree Softwareの両方がいっしょだからです。

この問題を解決するため、 Free Software Foundationでは、 1999年9月、 Free Software用のデータベースであるFree Software Directory (フリー・ソフトウェア・ディレクトリー) [15] の取組を開始し、 Janet Caseyに保守を任せました。

ディレクトリーの各項目については、 許諾が見かけと本当に合っているのかどうか、 ウェブ・ページや、 ソース・コードを参照し、 適切な許諾のあることを検査します。 したがって、 Free Software Directoryからの情報について、 利用者は、 より信頼を置くことができるのです。

2003年4月、 国連教育科学文化機関 (ユネスコ) [16] は、 FSFのこの活動に参加し、 公式に支援しています。 したがって、 今では、 "FSF/UNESCO Free Software Directory"なわけです。

もし皆さんが、 何かの解決策をさがしていて、 ある目的のアプリケーションが実在するかどうか知りたいならば、 Free Software Directoryが、 よい参照場所を提供します。

プロジェクト作者の方は、 ―もしまだならば、 ですが― ディレクトリーに入っているかどうかお確かめを、 そして、 もちろんBrave GNU World [1] にもお知らせをください。

おわり

つまり今月のコラムもこのへんでおわりということです。 もしご質問、 コメント、 お考え、 いかしたプロジェクトのお知らせなどございましたら、 遠慮なく、 どしどし電子メール [1] をください。

情報
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[3] GeorgのBrave GNU Worldのホーム・ページ http://brave-gnu-world.org
[4] 「We run GNU」イニシアチブ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/rungnu/rungnu.ja.html
[5] LAoEホーム・ページ http://www.oli4.ch/laoe
[6] GIMPホーム・ページ http://www.gimp.org/
[7] Brave GNU World 第49号 http://brave-gnu-world.org/issue-49.ja.html
[8] Application Version System (Apvsys) ホーム・ページ http://www.apvsys.org/
[9] GNU Stowホーム・ページ http://www.gnu.org/software/stow/
[10] Brave GNU World 第36号 http://brave-gnu-world.org/issue-36.ja.html
[11] GNU Hurdホーム・ページ http://www.gnu.org/software/hurd/
[12] pyDDRホーム・ページ http://icculus.org/pyddr/
[13] PyGameホーム・ページ http://pygame.org/
[14] Simple DirectMedia Layer (SDL)ホーム・ページ http://www.libsdl.org/
[15] Free Software Directory http://www.gnu.org/directory/
[16] 国連教育科学文化機関 (ユネスコ) http://www.unesco.org/

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Copyright (C) 2003 Georg C. F. Greve
Japanese translation by IIDA Yosiaki

日本語訳: 飯田義朗

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Last modified: Fri Jun 13 13:00:19 CEST 2003